はじめに
「何! 契約が取れなかった!! ならばお前が買え!!!」
これは私のサラリーマン時代の上司から、何度か受けた愛の鞭です。毎月の売上目標とあわせて社員全員の前で、「○○件、受注します」という宣誓をし、月末にその数字を達成できなかった時に浴びせられる言葉です。
入社時の営業活動は一日飛び込み訪問含めて10件以上、どんなに暑い夏でも(当時は、当然クールビズという言葉もなく)スーツ・ネクタイ姿で訪問前には汗を拭いて笑顔と緊張で「こんにちは!」と訪問しました。
しかし、ほとんどの会社から1分もたたないうちに、塩をまかれて出てくるような営業活動の繰り返しでした。私は工学部物理学科の出身です。周囲の同窓生は関西に2社ある大手電機メーカーに就職する人が殆どでした。私はどちらかというと、傍流で彼らと同じ道を歩みたくない、と考えていました。
その後独立し、中小企業診断士として「創業とIT」を中心とした仕事をしながら、営業支援にも携わってきました。そして、支援先の企業では、営業マネージャーが「まだ1件じゃないか!10件のノルマを達成できるまで帰ってくるな!」と檄をとばす風景を見てきました
私は営業実務とご支援の合計35年間で、営業マンに商品知識を勉強させ「売ってこい」の営業では成長しない、時代が変化し販売する商品が変っても、営業マンとして成長していく糧は「顧客の現状と課題」を把握する意識が大切である、という結論に到りました。
しかし、法人営業マンは商品を売りたいが為に、どうしても自社の商品やサービスの紹介が中心の商談になってしまいがちです。
そして、気がつけば「物ありき」で顧客からの依頼事項(顕在ニーズ)を、ただご用聞きとしてこなすだけの営業マンをたくさん見てきました。
今、企業に求められているのは、この「物ありき」のご用聞き営業からマーケティングセンスやヒアリングのスキルを向上させ、新しい営業活動を描くことができる人材を育てることです。どのようにすれば、営業マンが物売りからの脱皮を図り、企業は付加価値のある商品・サービスを提供できる営業部への再設計を追求することです。
営業マンは、経験が長くなると自分の型・マンネリが発生します。経営者も営業マンに節目を持たせる意識がないと、組織文化も変わりません。
その節目の要素として、企業は営業マンに顧客からの依頼だけではなく、顧客を先回りして相談にのる「コンサルティング」の血を注入することです。これにより営業マンは「物ありき」営業から脱皮でき、企業は、単なる商品ではなく「ソリューション」という付加価値のある販売方法を通じて、売上が向上する。それが、経営者と営業マン双方にとって最善の方策なのです。
このコンサルティングの血を組織にどのように注入すればいいのか?具体的な内容についてこれからお話ししましょう。
注釈:
本書での「営業マン」とは男性だけではなく、
女性も含めた表現とご理解ください。